「あそこを見て」
亜里沙ちゃんが指をさした方向には隣の家との境界線の役割を果たしている切り株が列をなして並んでいた。
ざっと数えると10個くらい。
「夏になるとセミの声でうるさくなるから、ポプラの木を切ってちょうだいってお父さんにお願いしたの」
亜里沙ちゃんは得意気に話す。
「お父さん、優しいね」
お父さんを褒めると亜里沙ちゃんは微笑んだ。
でも、本心から出た言葉じゃなかった。
長い年月をかけて成長したポプラの木を娘のひと言であっさり切ってしまうなんて……お金持ちのやることはわからない。
「亜里沙は虫が嫌い」
亜里沙ちゃんが口を尖らせる。



