手を伸ばした先に黒い影が走る。


 娘の体がプラットホームへ落ち掛けた瞬間、黒い影が現れて引き戻した。


「危なかった」

 なにが起こったのかよくわからず、目をパチクリさせている娘をその黒い影は抱き締めた。


 地下鉄は規定のラインに停止。


「どうして?」

 私は黒い影の正体を知ってどうしてここにいるのかを問う。


「お弁当を忘れているよ」

 夫はヒヨコのアップリケがついた巾着袋を見せた。


「あぁ~よかった」

 私は安堵してプラットホームにへたり込み、忘れた娘のお弁当を届けにきてくれた夫に感謝した。