柳沼家の100メートル手前でタクシーを降りた。


 フゥ~と重たい空気を胃から吐き出し、気分的に体を軽くして柳沼家の石の塀に沿って歩く。


 すぐ異変に気づいた。


 柳沼家の鉄鋳物の門扉が開いたままになっている。


 閉め忘れというより、まるで入ってきなさいと誘っているかのように門扉は無防備。


 インターホンを鳴らそうか鳴らさないか悩んでいると「バーン!!」と激しくピアノの鍵盤を叩く音が聞こえた。


 風に乗った優雅な演奏ではなく、柳沼家の裏手から怒りがこもった直情的な響きが空気を切り裂いてきた。