この平穏な日常を手放したくないという思いから、柳沼家に行くことにブレーキをかけている。 交差点で純子を待っていると「おはよう」と背中越しに声が飛んできた。 「おはよう!」 振り向いた私の顔が途端に曇る。純子の右足首に包帯が巻かれ、不自然な歩き方をしていたからだ。 「へへ、挫いちゃった」 私がケガの原因を訊くより先に純子が笑う。 「どうしたの?」 「普通の道で普通の石に躓いて転んだの。ドジっちゃった」 純子が照れながら理由を説明してくれた。