「痛ぃ~」

 私は10本全部の指を失った感覚に捕らわれた。

 じんじんと脳に響いてくる痛みの連打。

 赤く腫れた指を庇い、身を屈める。


「ピアノに触るからよ。それに飽きたのはピアノじゃなく、ア・ナ・タ」

 亜里沙ちゃんのひと言は痛みをどこかへ吹き飛ばすほど衝撃的で、聞き間違いだと思いたかった。


「な、なんて、言ったの?」

 私は怖々訊き返す。


「聞こえなかった?」

 ピアノの方を見ていた亜里沙ちゃんがクルッと振り向いた顔には、子供らしからぬふてぶてしさが染み出ていた。