振り向くと、亜里沙ちゃんがニコッと笑いながら立っていた。


「危なかったネ」

 亜里沙ちゃんは会心の笑みを向ける。子供ゆえの純粋無垢な笑顔が怖かった。


「風でドアがうるさかったから窓を閉めにきたの」

 怒ってもよさそうな状況なのに先に言い訳してしまった。

 お金をもらってお世話をしているという弱い立場が邪念となって叱る行為にまで発展しなかった。


 亜里沙ちゃんは私の言い訳を「フフフ……」と鼻で笑ったかと思うと、次の瞬間「あははっ」と乾いた笑い声を上げた。

 明らかにいままでの亜里沙ちゃんとは雰囲気が違う。


「ごめんね、勝手にお父さんの部屋に入って」

 亜里沙ちゃんの精神状態が掴めず、とりあえず謝った。