「失礼しま~す」

 亜里沙ちゃんの部屋以外で人が出入りする音を聞いたことがないし、誰もいないとは思っていたけど、念のために声をかけて部屋に入った。


 部屋の中は質素そのもの。


 鉄パイプのシングルベッド、クラシカルなコーヒーテーブル、スマートな脚部で支える卵型フォルムの椅子。


 必要最低限の家具しかない。


 埃などは見当たらず、掃除が行き届いている。

 ベッドのシーツにはシワがなくて、ホテルのルームメイク後のように生活感がない。


 横長のコーヒーテーブルの上に置いてあるアッシュウッドのフォトフレームだけがホテルの部屋にはない思い出を残している。


 亜里沙ちゃんと男の人が裏庭で撮影した写真。

 優しそうな表情で亜里沙ちゃんを肩車している。

 お父さんに間違いない。