柳沼家の門を潜ると、建物の裏側から聴き慣れた旋律が風に乗って流れてきた。

 亜里沙ちゃんは『猫ふんじゃった』にさらに磨きをかけようとしている。


 部屋に入ると亜里沙ちゃんはピアノを弾くのをやめ、私に抱きついてくる。

「待ってた……」


 子供の健気な心を粉々にしないためにも、亜里沙ちゃんのお姉ちゃんとして接しようと思った。


 純子というかけがえのない存在がなければ、学校よりも柳沼家へ生活の比重が傾きつつある。


 亜里沙ちゃんがトランプを用意していた。

 ババ抜きしかできないという告白を受け、私はわざと負けるようにジョーカーのカードを少し上にずらして際立たせる。