「どうしたの?」 私の硬くなった表情を心配して純子が訊く。 「ううん。なんでもないよ」 私は重要な決定期を外した気がした。 「私が帰ると寂しい?」 「もちろん」 「寂しがり屋のミキちゃんはお母さんが帰ってくるまで辛抱できるのかなぁ~」 純子が幼い娘に留守番を任せる母親のような言い方でじゃれてくる。 「もう!」 私はわざと頬っぺたをふくらませてプンプンと怒る。 純子が玄関のドアから出ていくまで『帰らないで……』と開こうとする口に必死でチャックをした。