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デコピンされた額を押さえながら千明のことを見てふと、思い出すことがあった。

「ねぇ、ずっと不思議に思ってたんだけど、初めて会った時、あたしの名前聞いて一人でブツブツ言ってたのって何だったの?」

その時の千明が真顔だったからあたし何かしたかと心配したんだから。

心配とは裏腹にその後は何もなかったけど。

その質問に答えてくれたのは千明じゃなくて風幸だった。

「千明昔から人の名前覚えるの苦手だったんだよ。んで、捺未の名前を覚えるためにブツブツ一人で言ってたんだよ」

「そーそー、千明ほんっと人の名前覚えないよな。高校の時とかもうすでに名前覚えるの諦めて自然に覚えるのを待ってたし。失礼な話だよな」

風幸の言葉に陽生も同調しいかに千明が人の名前を覚えられないのかが十分にわかった。

それなのにあたしの時はその場でブツブツ言うくらい必死になって覚えようとしてくれたんだね。

千明が可愛らしいと思うと同時に嬉しさが込み上げてくる。

あたしは千明の中では特別な部類に入るんだって思えるから。

普通の人よりかは大切に思ってくれてるんだって。