「帝様、今日は琴を聴かせに参りました」

 「……」

 相変わらず反応はないが、私は、構わず語りかけたり音楽を聴かせたりと、毎日帝様の部屋へ足を運ぶ。

 私、根性だけは誰にも負けないんだから

 別に、この人と生涯を共にしたいっていうんじゃない

 ここまで無視されると、意地でも振り向かせようかと思ってね。



 「さすが、八重様ですわ」

 「私は、別に」

 「そんな謙遜なさらないでくださいな」

 「だって、何をしても簾が上がる事はないのよ」

 「それでも、八重様は毎日足を運ばれております。きっと帝様の心に届いております」

 「そうは思えないわ(苦笑)」

 簾が上がらないだけでなく声をも聞いていないもの

 彼の声を聞いたのは最初の日だけ



 日は更に経ち、もう梅の花の見頃を終えようとしている穏やかな日

 いつものように、帝様の部屋を訪ねると、珍しくすだれが上がっている。

 「あら、お出かけなさったのね」

 私は、今歩いてきた長い廊下を戻ろうと長い着物を引き摺り身体を反転させる。

 と前方から凛々しい方が一人

 「御機嫌よう」

 このような方この館に居たかしら?

 そう思いつつも、咄嗟に手持ちの扇子で顔を隠し挨拶を交わす

 「八重殿?」

 「えっ、帝…様?」

 「すまぬ。」

 「何の事でございましょう」

 「先日そなたに無礼を申し上げた、それなのに…」

 「しっかりなしなさい、貴方の過去に何が合ったのかは存じませんが、貴方は国を背負う大事なお方なのでしょう?」
 
 「…ありがとう」

 帝様の言葉と同時に温かなものに包み込まれる

 身動きが取れない

 えっ!?

 これって…

 今、措かれている状況を把握するのに暫しの時間がかかった。