「ばっ……バカじゃん!」

「あっ、そう。そういうこと言うんだぁ~」

「……流奈」

「えっ?流奈?」

「そう」

「流奈か……」

「なに笑ってんの?」

「『セーラームーン』の猫の名前と一緒だぁ」

「ほんっとムカつく!」

「うそうそ!かわいいな」


なんだか照れるあたしがいた。


「ってか、名前がだよ?」

「わかってるよ!」

いつの間にか、はじめて会った男の隣で自然に笑っている自分がいた。


「俺は、翼」

「翼クンか」

「違う!翼!!」

「つばさ?」

「そう!『クン』はつかないからな!」

「そうね。クンはナシだよね!でもいい名前だね」

「だろ?これからなにかあったら、俺が翼を広げて飛んで助けに……って、おい!なにがおかしいの?」

「なんでもないよ~。なに言おうとした?」

「もういいよ」


いじけている翼を見て、また、あたしは笑った。


「なに?」

「流奈の笑顔いいよ」

「えっ!?ありがとう」

「おう!素直で気持ちわりぃけどな」

「はいはい。うるさい」




そう、これが、あたしの翼の出逢いだった。


今でも昨日のことのように蘇ってくる……翼の一言ひと言。


あたしの顔を応急処置してくれたこと。


顔、姿、すべてが……



あの日、翼はあたしを救ってくれた。


枯れかけた花に水をかけるように。


翼はあたしの心にそっと、水をかけてくれたの。


渇ききったあたしの心にーーーー。