“幸せ掴むんだよ……”
その言葉に胸が痛くなった。
幸せ――。あたしの幸せは、翼と一緒にいられたこと。
翼と一緒に笑い合えたこと。
翼と一緒にデートしたこと。
あたしの幸せは、翼がすべてだったのに。
翼がいなくなっちゃったいまは、幸せなんていらないんだ。
翼がいなきゃ幸せじゃない。
翼とじゃなきゃ幸せじゃないのに……。
窓の外を見ると、懐かしい景色が飛びこんできた。
いつもはふたりで来ていた場所。
いつもはこの景色をふたりで見ていたのに。
車の中で手をつなぎながら。
でももう、いまはひとり……。
しばらくしてタクシーが止まった。
「着いたよ。ここでいいのかな?」
そう言うと、あたしを心配そうな顔で覗きこんだ。
「ありがとうございます」
お金を払ってタクシーを降りた。
雨は止んでいたけど、すごく風が冷たかった。
そう、着いた場所は、翼との思い出の場所。
幸せをたくさん誓った場所。
海。
翼とあの日、約束していた海――。
“連れていってやれなくて、ごめんな”
翼からの手紙には、そう書かれていた場所。
あたしは海のほうに向かって静かに歩き出した。
誰もいない、ひとりだけの海。
こんなに広かったっけ……。
そんなことを考えながら、あたしは砂浜に腰を下ろした。



