そのとき、音楽がかかった。


翼が大好きだった曲。
 

その瞬間、涙が溢れた。


いつも幸せな気持ちで聴いていた曲が流れているなかでの翼の出棺。


あたしは声を出して泣いた。
 

泣かない。今日だけは。
 

何度言い聞かせても、涙が止まらない。


翼が……、翼が本当にいなくなっちゃう。
 

みんなが頭を下げた。


雨が降り、思い出の曲が流れてるなかで、翼を乗せた霊柩車が静かに走りはじめ、あたしのほうに近づいてきた。


「や……め……て……やめてぇ!!」


あたしは胸を押さえながら傘を捨てて、車のあとを追いかけた。


「お願い……、お願いだから!翼を連れて行かないで!!!」
 

走りながら、あたしはゆっくり走る車に近づいていた。
 

翼の母親があたしを睨んだ。


それでも足は止まらず走りつづけた。


「やめてー!つばさぁ!!」
 

そのまま、あたしはその場に崩れ落ちた。
 

お願いだから……、お願いだから、翼を連れていかないで……。


「つばさぁ~!!行かないで!!行かないでよ。あたしをひとりにしないで」
 

しゃがみこんで泣いた。


「ぃゃ……いやだよ、翼。翼がいなくなっちゃう……」
 

雨のなか、翼はあたしをひとり残して、もう二度と逢えない場所まで、行ってしまった。




気がつくと、何人もの人があたしを支えてくれていた。


そして、翼と同じ年くらいの男の人があたしに声をかけた。


「流奈ちゃん……だよね?」
 

あたしは放心状態のまま、その男の人を見上げた。


その人はあたしに傘を差し出して、静かに話しはじめた。


「俺……、翼の仲間なんだけど……」
 

悲しそうな声に、あたしはまた涙を流した。


「流奈ちゃん?翼から流奈ちゃんのことは、耳が腐るほど聞いてたよ」
 

彼はあたしに向かって微笑んだ。