理恵に言われたとおり、10時に間に合うように家を出た。
 

少しでもいいから近くで……。


それがあたしの最後の願い。


重い足取りながらも、式に向かった。
 

怖かった。


その場所に行ったら、嫌でも現実にさらされる。


嫌でもすべてを受け止めなきゃならない。


考えると、すごく胸が痛くて苦しかった。
 

なのに、こういうときにかぎって、ゆっくり歩いたはずなのに早く着いてしまう。 
 


現実からは逃げられない――。



あたしは少し離れて見守った。


翼を送りに来てる人は、びっくりするほどたくさんいた。


あたしはその中に入らず、隠れるように立っていた。


「翼、ごめんね……、近くに行けなくて。流奈はここにいるからね」


決めていたんだ。今日は絶対に泣かないって。


今日だけは。翼の大好きな、あたしの笑顔で送ろうって。


だから一生懸命、涙を堪えていた。


しばらくすると、まわりがざわめきはじめて、お兄ちゃんが話をしはじめた。


遠くにいるあたしは、お兄ちゃんがなにを話してるか全然聞きとれなかった。


ただ、みんなが涙を流している姿だけが見えた。


「翼、みんな来てくれてるよ。ちゃんと見てる?翼がいなくなったことを悲しんでるんだよ。こんなにもたくさんの人が悲しんでる……」
 

あたしもみんなの涙につられそうになった。
 

絶対、泣かない!
 

あたしは深呼吸をした。
 

あたしと翼が出逢わなければ、あたしがあの日、コンビニに行かなければ、あたしが翼に真実を告げなければ。


こんなにたくさんの人たちを悲しませることもなかったんだ。
 

そう思うと、ここで隠れて見てることさえ、いけないことのように感じた。