帰り道、あたしは家まで歩いた。
前にも翼の家まで歩いたことがあったけど、そのときはそんなに長くは感じられなかった距離が、この日はとてつもなく遠くに感じた。
力が入らず、それでも歩いた。一生懸命歩いた。
夢も希望も、未来も、幸せも、愛も、いっぺんに失ったあたしは、もうただの抜け殻だった。
ただの動く人形のようだった。
家の近くの商店街に着いたとき、足を止めた。カメラ出さなきゃと思い、いつも現像に出すお店に入った。
「あら~っ!流奈ちゃん、久しぶり~!!」
おばちゃんに笑顔で会釈した。
「……流奈ちゃん?」
あたしは黙って、バッグからカメラを出した。
「どうしたの? なにがあったの?」
「えっ!?」
「流奈ちゃん、変よ?」
あたしはびっくりしているおばちゃんに笑いかけて、「お願いします」とだけ言って店を出た。
家に帰ると、お母さんが「流奈! あんた、いままで一体、どこ……」と怒鳴ろうとしたけど、
目が合った瞬間、お母さんはそれ以上なにも言わず、黙ってるあたしを見つめていた。
「疲れたから……、少し寝る」
そう言って部屋にこもった。
地元も、あたしの家も、なにも変わってなかった。
翼がいなくなっちゃったのに。
時間は普通に過ぎて、みんな普通の生活をしている。
あたしの愛した翼がこの世からいなくなったのに、なにも変わらない世界。
あたしはその日、ボーッと部屋で過ごした。なにもする気にならず、ただボーッ……と、過ごしていた。
夜になってお母さんが声をかけてきた。
「流奈……、ご飯よ? こっちおいで」
いままでになかったような優しい声だった。
「……いらない」
そう返事をすると、お母さんはご飯をお盆にのせてきて、部屋のドアを少し開けて置いた。
「食べなきゃ、元気にならないから」
それだけ言い残し、部屋を離れた。
食べてもね、もう元気なんて出ないんだよ……。
あたしはベッドに潜りこんだ。