ガチャーーーー


翼の部屋のドアを開けた瞬間、ウルトラマリンの匂いが漂い、あたしは翼と寝ていたベッドで泣き崩れた。


まだこの部屋に翼が普通に帰ってくる気がして、信じられなかった。


翼はもう二度と、この部屋に戻ってくることもないのに。


昨日まで一緒に寝ていたベッド。


昨日まで一緒に見ていたテレビ。


翼の部屋には、ふたりの思い出がたくさんあった。


カレンダーを見ると、翼が仕事に行った日、翼とデートした日、X'masの日……


毎日毎日、なにかしら書いてあった。


でも、今日でこのカレンダーに書くことはなにもないんだ。


あたしはクリスマスに翼が着たスーツと、ブルーのパジャマを抱いて、泣き叫んだ。


「帰ってきてよ、翼……、早く帰ってきて!!」


頭がおかしくなりそうだった。


もう翼と一緒に過ごすことができないかと思うと、本当に頭がおかしくなりそうだった。



あたしは翼が着ていたスーツをパジャマを抱いて1階に降りていった。


そう、あまりにも突然すぎて忘れていたんだ。



どうして翼は死んじゃったの?



それを聞きたくて、あたしは重い足取りでお兄ちゃんのところへ向かった。


お兄ちゃんはリビングで呆然と座っていた。


「流奈ちゃん……」


お兄ちゃんの瞼は腫れ上がっていた。


「お兄ちゃん、なんで翼は死んじゃったの?」


お兄ちゃんは下を向いたままだった。


ずっと続く沈黙。


先に口を開いたのは、またあたしだった。


「どうして翼は帰ってこないの?」


その言葉に初めてお兄ちゃんがあたしのほうを向いた。


「俺がいけないんだよ。俺がいけないんだ……」


お兄ちゃんの目から次々と涙が溢れ出てきた。


「なんで……?なんでお兄ちゃんが関係あるの?」

「俺のせいなんだよ。俺があのとき翼を止めておけば……」

「え……?なに?どういう意味?」


お兄ちゃんはあたしに首を振った。