このドアの向こうに翼がいる。


息をしていない翼が。


起きない翼が。


笑っていない翼が。


まだ信じられない気持ちでいっぱいのあたしは、立ち上がりお兄ちゃんと先生に近づいた。


「もう一度、翼に逢ってきていいですか?」


お兄ちゃんも先生も、深くうなずいた。


あたしはドアの前に立ち、深呼吸して部屋に入り、そこで立ち止まって、何度も何度も、心の中で「夢でありますように……」と願った。


それからベッドに近づいたけど、やっぱりどんなに願っても、ベッドの上で寝ていたのは翼だった。


あたしは顔にかかっている白い布を取り、翼の顔に手をあてた。


「痛かったね、翼」


涙が止まらなかった。


「どうして……、なんで翼なんだろうね……」


あたしは翼に話しかけつづけた。


翼が聞いているような気がして。


翼と出逢ったときのことから順番に、ふたりの思い出を話し始めた。


翼の笑った顔が好きだった。


少しひねくれた顔も、悲しそうな顔も、不安そうな顔も、真剣な顔も。


そして、いつも幸せそうな顔をしていた翼が、本当に本当に好きだった……。


大好きだった。


心から愛していた。



あたしは翼に抱きつき、声をあげて泣いた。


「翼……、流奈、悲しいの、苦しいの、つらいんだよ……。なのにどうして?どうして抱きしめてくれないの?頭なでてくれないんだよ!!」


翼が答えるはずないのに、それでもあたしは、必死に翼に話しかけた。



もう冷たくなった翼に。