「流奈っ!あんたなんでまた!行くんじゃない。やめなさい!」
あたしの腕を掴んだお母さんの目には涙がたまっていた。
翼と付き合っているあいだ、大人しく真面目になったあたしを心から喜んでたのはお母さんだったのに……。
「チッ、うるせーな~!ほっとけよ!!」
あたしは母親に顔を近づけて怒鳴りちらした。
「どうしたのよ……、流奈……」
泣き崩れた母親を睨み、あたしは玄関を飛び出した。
ごめんね……、お母さん。
やっぱり、こうするしかないの。
そして、翼……、さよなら。
そうつぶやいて外に出た。
「悪いね~!」
「マジ久しぶりだよ~!まったく連絡つかねぇ~し。なにしてたの?」
「しばらく真面目ぶってた、。まぁいいじゃん!」
「雄也へ?別れたの?」
「とっくにね」
加奈と由美と薫の3人は、久々に顔を出したあたしを不思議そうに見たが、だれもなにも聞くことはなかった。
そう、だれもがいろいろな事情を抱え、その思いを吹き飛ばすために単車に跨がり風を切ることを、言葉を交わさなくてもわかっていたから。
「流奈!ケツに乗んなよ!」
「なんでケツよ~。前に決まってんじゃん!」
「はい、はいっ」
あたしは前に乗っていた加奈を押しのけ、ハンドルを握った。
“悪いことしない”
そう翼が言ったときの顔が一瞬頭にちらついた。
でもあたしは爆音とともに単車を走らせた。
久々に乗る単車。
翼に出逢う前は、すごく楽しくてスリル満点で、金属バットを振り回しながら走っていた。
なのに、いまはもうあのときのとうな気持ちは沸いてこなかった。
「ねぇ!やっぱ前と代わってくんない?」
大声で言った。
「どうしてよ?」
「だるい……」
「わかった、停められるところで停めるわ」
楽しくない。
翼がいないなんて。
なにも楽しくない……。