こうして、合唱の日々が終わり、吹奏楽漬けの毎日が戻ってきた。
希良には複雑な気持ちだが。
吹奏楽は大好きだ。
これに命を懸けているくらいの勢いである。
でも
合唱も好きだ。
今までなら
迷わないはずのところで
自分は迷っている。
それが今の希良の悩みだ。
「遙さん、あの…」
その日、希良は部室前で遙を待ちかまえていた。
「宮路さん、久しぶりですね。」
遙はいつもと変わらず、穏やかに微笑んだ。
「出てなくてすいませんでしたっ…。」
頭を下げる希良に遙は少しあわてた様子で「いえ、顔を上げてください。」と言った。
それでもうつむいたままの希良に遙は苦笑しながら言った。
「桜木音楽祭の、」
そこでやっと希良が顔を上げた。
ここが地元でない遙が知るわけもない音楽祭なのに、希良はいかにも「何で知ってるの?」という顔をした。
そのわかりやすさに遙は軽く笑った。
「桜木音楽祭の選考委員に、俺が懇意にしてもらってる大学の先輩がいました。」
「えっ…。」
「先輩っていうか卒業して活躍してるプロのプレーヤーの方で。
それで、
「今、中学生を教えてるんだろう?
それなら来てみろよ。」
って感じで見に行ったら
…ん?見たことある子いるぞ?!
みたいな。(笑)」
遙はまったく嫌味なしに笑った。