「ばかにしないでよ!」

あたしはテレビにクッションを投げつけた。
それでも気がすまなくて、ノート。鏡。手当たり次第に手元にあったものを、ブラウン管越しのあたしに投げつけた。
テレビに当たって、弾き飛ばされたものに気がついて、あたしは手を止めた。
郁が買ってきたばかりの単行本だった。


あたしはテレビのコンセントを引っこ抜いた。
もういらない。これはいらない。

それは郁が隣に二度と戻らなくなったあの日から、あたしが初めて抱いた感情だった。

どうにもならない、怒りだった。