「郁を殺したやつ、捕まってよかったな」
「警察官の癖にえらい人事ね。捕まってよかった、だなんて」
「おれはその担当じゃなかったからな。
っつーか、お前のその淡白すぎる反応の方がおかしいだろ。普通、泣き崩れるところじゃねーのかよ」

「生憎。そんな展開、ドラマの中だけみたいよ」


桐原は、うっとうしく長い前髪をかきあげて、薄く笑った。



「泣きたくなったら、言えよ。泣かしてやるから」





あたしは泣きたいのだろうか。
郁が死んでから一度も流したことがないそれは。

あたしの最後の意地なのだ。




泣いたら、すべてが崩れてしまいそうだった。