「じゃあ、行ってくるね」

そう言って、いつもどおりに家を出た郁が、当たり前のように『ただいま』を言ってくれることはなかった。

あたしはそのとき鏡の前で必死にアイラインを引いていた。
だから、郁の声しか知らない。
あたしは最後の郁の笑顔すら、見ることができなかった。






「あたしの神様」