「でも…それじゃヒデミちゃん大損でしょ」

 気遣う闇珠に店長は人指し指を立て、チッチッと振って見せる。

「変な気遣い、するもんじゃないの。好意は受け取るのが礼儀よ」

 津也も、脇で頷いている。

「うん…ありがと」

 てれながら、闇珠は礼を言う。

 と、腕時計を見て李苑が声をあげる。

「いっけない、今日は紅葉と台本書くんだった」

「台本って、お姉さん演劇でもやってるの?」

 尋ねる闇珠に、李苑は首を振る。

「ちがあ~うっ。笑いの祭典、M-1グランプリに出るのよ」

 誰の影響か、李苑は大のお笑い好きなのだ。

「あの気弱な紅葉が、よく引き受けたな」

 いつも李苑の袖にしがみついていた紅葉が漫才など、津也には想像しがたい。