「貴様が何者かは、私は知らぬ」

 自らも命尽きようとしているアガートラームはよろめきながら、必死に柄を握りしめる。

「だが、願いをかなえてくれ」

 他人のために祈る。

 それは、王にとっては初めてのことだった。

「あの男を、勝者の魂を救ってやってくれ」

 王は膝を折り、懇願していた。

「私の命を差し出しても構わん。あの男を死なせないでくれ」

 もし、剣から聞こえた声が神の声なら、消え行く命を引き戻すこともできるだろう。

 しかし、返ってきたのは意外な言葉だった。

『それはできません』

「できない、だと?」

 アガートラームは思わず目をむく。

「願いを聞いておいて、叶えられんとはどういうことだ」

 その叫びに、剣は静かに答える。

『彼の魂は、いささかも傷ついていません。何もする必要はないのです』