「格好つけたつもりはないんだけどな」

 闇珠の手に自分の手を重ねて、津也は言う。

「泣きたいなら、泣いていいよ。誰も笑ったり責めたりしない」

「もう大丈夫だよ」

 闇珠の言葉に首を振ると、津也は手を外して立ち上がる。

「心は晴れた。シオンとの対決も残ってるし、いつまでもウジウジしてられないさ」

 津也は振り向くと、闇珠を抱き締める。

「大丈夫だよ。俺は大丈夫だから」

 ややあって体を離す。

「なら、何も言わない。あ、そうだ。お砂糖取って」

 そう言う闇珠をよく見ると、エプロンに白い粉がついている。

「闇珠、お前何作ってるんだ」

 闇珠が答える前に、台所から声がする。

「闇珠ー、はよ来て。お砂糖どこなん?」

 晶の声だ。

「なんで、晶がここにいるんだ」

 眉をひそめる津也の脛を軽く蹴る闇珠。

「シオンに負けてどうしたこうしたって、愚痴る騒ぐで大変だったんだから」

 パタパタとスリッパの足音をたて、闇珠は台所に駆け戻って行く。

「ほら津也、早く早く」

「だからって、なんでここに来るんだよ」

 頭を掻きながら津也が台所に入ると、晶がボウルの中で何かをこねている。

「滅多に家に来ることなんかないのに、よりにもよってこんな時に来るかこいつは…」

 ぶつぶつ言いながら津也が天袋から砂糖を出すと、ようやく晶が顔を上げる。