空の神衣

「それ言ったら、野保ってもんだろ」

 津也は面白くなさそうに答える。

「本気で覚悟決めてるんなら仕方ないけど、そうじゃないなら無理矢理にでもリタイアさせるつもりだった」

 薄情などではない。

 津也は力を奪うことで李苑を救おうと考えていたのだ。

「それなのに…私は…アリアスを守ることも…」

 ようやく身を起こした李苑は、うなだれる。

「いや、守ってくれた」

 既に息が戻ったアリアスは、襟元から鉛色の珠を出して見せる。

 見ると、珠には無数の傷がついている。

 その傷が急速に拡がっていき、珠は音もなく砕ける。

「力は失ったが、これで私は戦わなくて済む」

 アリアスの表情はどことなく寂しげだ。

「どんな契約したか知らないが、オーブが砕けた以上叶わぬ夢に終わったわけだ」

 津也も寂しそうだ。

「サバイバーとして戦ってみたかったと、思わんでもないがな」

 それもまた、津也の本音であった。

 不毛な戦いでさえなければ、人知を超えた力でアリアスと戦って雌雄を決したかった。

 互いに力を認め合う二人が、心で語り合う機会を一つ失ったのだ。

 その喪失感はいかばかりだろうか。

 李苑には、無論分からない。