ヒュッ…

 大気が裂けるような唸りを、李苑は聞いた気がした。

 パアアァァンッ!

 直後、李苑は凄まじい衝撃に弾き飛ばされた。

 そのままもんどり打って倒れる。

(な…何…)

 何がどうなったのか、何をされたのかも分からない。

 起き上がってみると、津也は右掌底を引き込んだままの体勢だ。

(いや、違う?)

 よく見ると、津也の右手は血まみれだ。

 分厚いコーデュロイのシャツも、袖がボロボロだ。

「体術を極めれば」

 李苑が立ち上がるのを見ながら、津也は教えるように言う。

「体の末端…拳や爪先の動きが音速を超えることは可能だ。ただし…」

 そして構えを解き、傷ついた右腕を李苑に見せる。

「末端とはいえ、音速を超える負荷は相当なものになる。これがその代償だよ」