津也はあくまで淡々と語る。

「命を差し出す覚悟もない奴が、命を砕く覚悟もない奴が、偉そうに博愛語ってんじゃないよ」

 津也は前後に広くスタンスを取り、上体を大きく前に傾けた姿勢で両腕を左右に広げる。

「来いよ」

 そのまま重心を後方に預け、半身の体勢で溜めに入る。

「力に引きずられた意志で、信念が紡ぐ力に勝てると思うんなら、な」

 いつも瓢々としている津也の顔から、一切の表情が消えていた。

 その変化が、李苑に言い知れぬ恐怖を抱かせていた。

「来いよ」

 また、ぽつりと言う。

「…李苑が俺に勝てなくなった理由、教えてやるよ」

「勝てなく…なった?」

 錫杖を構えて李苑は怪訝な顔になる。

「そうだ。勝てなくなった、んだよ」

 やはり淡々と津也は答える。

「少し前なら、李苑は俺に勝てたかもしれない。だが今となっては、何度やっても勝ち目はない」

「そんなこと!」

 津也の言葉を遮るように、李苑は声をあげる。

「覚悟ならできてるわ。あなたを倒す、そう決めて私はここに来た!」

 再び錫杖を繰り出したが、津也は構えたまま差し出した左腕で弾く。

「やっぱり、分かってないよ」