ス…

 錫杖を引き込み、

「っ!」

 気声と共に繰り出す。

 手応えがない。

 津也の姿が、李苑の視界から完全に消えた。

 特別運動をしているわけではない李苑と鍛えている津也とでは、そもそも地力が違う。

 いかに武装しようと、その隔たりを埋めるには至らない。

「間違いなく、李苑は強くなったよ。だけど…」

 突きをかわして李苑の背後に回った津也は聞かせるでもなく呟く。

「まだ本物の強さになってはいない!」

 背後から李苑の肩に飛び乗り、脚の力だけで投げ飛ばす。

 どしゃっ

 受け身がとれず、李苑は大きくバウンドする。

「ぅあうぅっ!」

 一瞬呼吸が止まるほどの衝撃に、李苑の顔が大きく歪む。

「闇珠を置いて来た二つ目の理由は、お前が相手なら一人で勝てるから」

 息をつきながら起き上がる李苑を見下ろし、津也は無機質な声で言う。