「もっとも、置いて来た理由はそれだけじゃないんだけどな」

 隣を見やると、李苑も立ちあがっていた。

「思い上がってるんじゃないの?私の意図を知っていて丸腰で出てくるなんて」

 周囲から人の気配が消えた。座席も、壁も消えていた。

 李苑が領域封鎖をかけたのだ。

「無駄に命を捨てることになるわ」

 ベルトから光が走り、李苑は法衣姿に変身していた。

「断っておくけど、手加減するつもりは欠片もないから」

 錫杖を突きつける李苑に、津也は腕組みで対峙する。

「闇珠を置いて来た理由のひとつは、李苑と戦わせたくないから」

 そういう津也は、沈痛な面持ちで続ける。

「退いてくれないか。どう転んでも、李苑にとってマイナスにしかならないぜ」

 しかし、その一言が李苑を激昂させる。

「損得の問題じゃないのよ。あの戦い、あなたが見ていたのは分かっていた」

錫杖を突きつけたまま、李苑は津也を睨む。

「るんるんが見えない敵にやられた時、助けようとすればできたはず。あなたはるんるんを見殺しにしたのよ」