領域封鎖が解けていないことが、一層不安をかきたてる。

『おっちゃんが死んでるんやったら、領域は解放されるはずやん。それが閉じたままいうことは、まだ…』

 距離をとって警戒していると、ミシェルの体が震えた。

「ふ…」

 苦し気に息をつきながら、ミシェルはそれでも起き上がる。

「…あれでまだ生きてるやて?まるでマンガや」

 決める覚悟だった。

 倒しきれなかった。

「効いた…よ」

 エトワールを杖代わりに立ち上がりながら、ミシェルは満足したように言う。

「老いては、…子に、従え、だったか。君のような若者が将来にも生まれるなら、シャルマン家は持ち直すかも知れない」

 震える足を踏ん張り、エトワールを高く掲げるミシェルの左目が、閉じた。

(来る…いや、違う)

 晶には、ミシェルから殺意も闘志も感じられない。

「君と戦えてよかった。おかげで、私はこの戦いに幕を降ろせる」

 晶は手を伸ばしかけ、止めた。

 ミシェルが何をしようとしているのか、分かったのだ。

「決めたんやね…」

 諦めたように呟く。

 舞台を降りる邪魔を、してはいけない。

 そう思った。

「君は君の未来を作ってくれ、晶。オー・ルヴォアール!」

 一際高く叫ぶと、頭上にラファルを撃つ。

 ほとばしる嵐が、やがてミシェルに降り注ぐ。

 嵐が止むと、そこには人がいた痕跡など微塵もなかった。

「アルゴス、同調解除」

 晶の腕を覆っていた装甲がブレスレットに戻ると、アルゴスが青年の姿で現れる。

「ミシェルの魂は解放された。戦いの呪縛から、晶が救い出したんだ」

 瓢々と言うアルゴスの背中に、晶は顔をうずめる。

「ちょっとだけ…このままでおってくれん?」

「蒼馬は待ってくれないからね。少しだけだよ」

 言いながら、アルゴスは晶の押し殺した声が止むまで待とうと思った。





―ミシェル・シャルマン 
 死亡