「申し訳ないけど新しい部屋はないから、リュウセイと一緒ね?…ええっと……」

 あたしが彼の名前を思い出そうとしたときだ。


「ベテルギウス。…ベティ、でいい」



 ふわふわと揺れる金色の髪は、わが家のシャンプーの香りがした。

嬉しそうに布団を用意しているリュウセイは、いつもどおりに戻っていて拍子抜けしてしまった。


「僕の枕は、すっごいふかふかなんだよ!」

 ニコニコと笑うリュウセイを見つめる彼。

相槌を打つわけでもなく、ただ黙って手にしている貸した父のパジャマを広げていた。


 あの後、タイミングよく夕飯に呼ばれたあたしたち。

リュウセイにはいつもどおりにしてもらって、父と母をなんとか丸め込めばいい。


「彼、一人暮らしをしてたんだけど、先日そのお部屋が火事にあってなくなってしまったみたいなの」

 
 あたしのこの一言にクラっとくるのは父。

「……そうか、大変だったな」

 こういう苦労話に弱いのは、すべて計算済み。

もう一押しが必要になる。


「友達の家を転々としていたそうなの…。ご両親もずいぶん前になくされてるそうで……」

 手を止めて、ふと視線を落とす。

もちろん、嘘八百。

 ここで隣で一連の流れをみていたベティの足を、テーブルの下でカツンと蹴る。

くいっと顎でさすと、ベティは少し引きつった笑顔を浮かべる。


「お、お願いします……。お母さん」