遠くにサイレンの音が聞こえる。

 「あっ!あんた、もしかして“キリュー”?霧生仁(きりゅう*じん)?」
 「んだよ・・・てめぇこそ誰だよ!あぁ?何様だ?」
 「俺様。」

そう言うと、そいつは立ち上がって笑った。
一台だけ無造作に転がっているバイクを起こすと、エンジンがかかることを確認する。

 「おい!俺のバイクに何してんだ!!」
 「は?動くかどうか確認しているに決まっているでしょう?」

さも当たり前にそう言うもんだから、思わずそうなのかと思ってしまう。

 「あたしの家、この近くだって行ったでしょう?病院、もう閉まっているから傷の手当てできないし。」

そう言って、そいつは俺の返答など聞かずにバイクにまたがった。

 「安心してよ。免許は持っているから。」

不良にそう忠告するやつも珍しい。そう思っていると、こちらにヘルメットが投げられる。このままバイクだけ持っていかれるのもシャクなので、俺はとりあえずバイクの後部座席に座った。

 「しっかり掴まっていてね。」

楽しそうに笑うと、こいつは思いっきりバイクをふかした。
思えば、これがお前とのはじめての出会いだったんだな。