成瀬はタバコをもみ消し、席を立った。


そして


「あ、そうそう」


リビングを出かかった所で、何かを思い出したように振り返った。



「それ」


そう言って彼が指差した先には、あの卒業文集。



「なんでそんな物が貴女の部屋にあるのか知りませんけど、それにハヤトの作文はありませんよ」


「は……?」



少し、成瀬の唇が笑ったように見えた。



「将来の夢なんてテーマで、あいつに書けるわけがないんだから」



「――っ…」




ゆっくりと扉が閉まる。


成瀬の体が、扉の向こうに消えていく。



遠ざかる革靴の足音が、やがて聞こえなくなった。


そして静寂とあたしだけが、この部屋に残された。



あまりの静けさに身ぶるいし

だけどあたしは気づいていた。


この心の中で、かすかに警告音が鳴っていることに。



リビングには、レオと同じタバコの匂いが残っていた。