「……オーナーさんが、私なんかに何の用ですか? まさかスタッフの交友関係にまで口出しするわけじゃないでしょう?」


「通常はね」


「………」


「彼の場合は、ちょっと違うんですよ」



成瀬の回りくどい話し方が、あたしの神経を逆なでする。



「どういうこと?」


「まあ、今はそこまで貴女に話す必要はないでしょう」



成瀬はタバコをくわえ、3口ほど吸うと、すぐに火を消した。


レオと同じ銘柄のタバコだった。



「じゃあ何をあたしと話したかったんですか」


「僕は別にね、ハヤトに近づくなと言ってるわけじゃないんです。ただ……」


「ただ?」


「貴女がいくらハヤトに惹かれたとしても、あいつが仕事以外で女を抱くことはありませんよ。」


「………」


「この先、決して」



硬いじゅうたんの毛並みを逆からなでたみたいに、あたしの胸はざわざわと波打つ。



成瀬はあたしの目を見ずに、こう続けた。



「特に……貴女のような仕事をしている人をね」



感情のない声。

敵意も、侮蔑すらも。



あたしの心はひんやりと冷たくなり、それとは裏腹に、手のひらは汗でぬるついていた。