「店長、お客さんですよ」


新入りのボーイが成瀬を呼んだ。


成瀬は昨夜の売り上げを数える手を止め、不機嫌に振り返る。



「客? こんな忙しい時に誰だ」


「それが……」


ボーイの体に隠れるようにしてたたずむ小さい影。



「隼人! ?」



思わず叫んだ成瀬の声に、怒りが含まれているのを察知した隼人は、ビクッと体を震わす。



「何してんだ、こんな所で! 今日は入学式だろうが!」


「……行った」


「は?」


「行ったよ。入学式」


「……だったら何でここにいるんだ? それに職場には来るなと言っただろ」


「だって……」



隼人は唇をとがらせた。



「みんな、親が一緒なんだ。僕だけ独りだから、みんな不思議そうに見てくるし……」



「………」



成瀬はしばらく黙り込んだ後


「仕事の邪魔はするなよ。おとなしくしてろ」


とため息をついた。