十数年前。




「おかえりなさい」



居間のドアを開けると、テレビの前に座った少年が背中を向けたまま言った。


小さな後ろ姿。色素の薄い髪が、蛍光灯の下で透けている。



「なんだ、まだ起きてたのか? 隼人」


「うん」


「早く寝ろ。明日は小学校の入学式だろ」



男はため息をつきながら、ネクタイを外す。


その後ろで、隼人はもじもじとうつむいた。



「おじさん……」


「ん?」


「学校、行かなきゃダメかな? 僕あんまり行きたくないな」


「………」



男は何も答えず、寝室に消えた。









成瀬の職場は池袋の路地裏にあった。


昼間からチカチカとネオンが灯り、金と欲望だけが街を動かす。


ビルに囲まれたこの場所は、自然の光があまり届かない。


全てがフェイクの世界。

それをしかける側に、成瀬はいた。