「1人?」

 何気なく近づきながら、声をかける。彼女はこちらを振り向きはしなかった。

「他のみんな、帰っちゃったよ」

 外を見ると、いまだ部活中の生徒達が最後の仕上げとばかりに声を張り上げていた。

「いつまでも残ってても、仕方ないんじゃないかな」

 そこで初めて、彼女はリアクションを返した。ふぅ、と溜息をつくと、

「待つだけ無駄かなぁ」

 呟くように言い、あーあ、と机に突っ伏した。猫のように一旦伸びをして、そのまま動かなくなる。

「何を待ってるのかは聞かないけど」

 僕は彼女の隣の席に腰掛け、諭すように話しかける。

「さすがにもう、誰もこないと思うよ」

 夕日はだいぶ落ちてきていた。外の生徒達もぼちぼち引き上げの準備に取り掛かっていた。