それは、俺が今までに見たことのない顔。
初めて見る『女の顔』だった。
同時に沸き起こる、怒りにも似た感情。
カーッと頭に血が上る。
今まで必死で守り抜いてきたものを、横からかっさらわれたような気分だ。
「…陸?」
「……わりぃ。俺に言われても分かんねーよ…」
力になれなくて、ごめん。
でも無理だ。
これ以上姉貴の口から、他の男の話なんか聞きたくねぇ。
きっと俺は、嫉妬に狂って姉貴を傷つけてしまうから。
だからその前に、俺は現実から目を反らした。
「…そっか。分かった。なんかごめんね」
「…いや」
姉貴が悪いんじゃない。
悪いのは全部、俺。
いつまで経っても現実を受け入れられない俺が悪いんだよ。



