「陸くーん、着信誰?」
「……姉貴」
「え、お姉さんいたんだ」
……いるよ。
お前らよりずっと可愛い姉貴が。
「わり。ちょっと電話してくる」
そう言って席を立とうとした俺の腕を、名も知らない女が掴んだ。
「そんなの後でいいじゃん」
少しだけ上目使いをしながら、女が俺を見上げる。
「ごめん。すぐ戻るからさ」
「どうせ大した用事じゃないって」
確かにいつも姉貴からの電話は、母さんからの言付けとか買い物の頼みとか、端から見れば大したことのない、ただの家族としての連絡ばかりだ。
それでも俺は、なるべく保留をせずに電話に出ていた。
特に理由があったわけじゃない。
あるとすれば、
単純に、姉貴の声が聞きたかったからだ。
俺は不満そうに唇を尖らせる女にごめんと謝って、通話ボタンを押した。



