直樹君が、
たわいもない話をして盛り上げてくれたおかげで、
いつもより短い時間で、
学校に着いた気がした私は、
同時に、
あいつと二人きりにならずにすんだことに、
内心ほっとした。
校門をくぐると、入学式に咲き誇っていた
桜の花の半分ほどが、葉の緑に占められている。
ふと、視線を感じて立ち止まった。
誰か、
というよりは、
複数の視線・・・。
近くから、ちらちらと横目に見られたかと思うと、
遠くから、じっと見られている気もする。
大半が女子のようだが、好意的というよりも、探るような目つきだ。
なんだろう?
こんなこと、
昨日までは、なかったよね?
「どうかした?」
挙動不審な私に、直樹君も立ち止まった。
その声に、あいつも私を振り返る。
「ん~、なんか、
見られてるような気がして・・。」
校舎の上の階を見上げると、
やはり、
数人の女子が、
窓からこちらを伺うように見下ろしている。
「あ~、
いつものことだから大丈夫!」
直樹君が、手の平をひらひらしながら答えた。
「いつものこと?」
私が、鸚鵡返しに聞くと、
なぜだかあいつが、眉間にしわを寄せた。
「あれ、清のファンクラブのやつらだよ。
ファンクラブっても、
ほんとにクラブがあるわけじゃねえけど、
こいつに気がある女子が集まって
黄色い声出してるのよ。
中学の頃から日常の光景。
こいつ、もてるからさ。
ま、彼女の立場としちゃ複雑だろうけど、
すぐ慣れるさ。
大丈夫!」
ファンクラブ~??
と、奇声をあげる予定だったが、
とりあえず、
今私が主張すべきことは、
一つだ。


