父がいなくなってしばらくは、
新しい母
--今のお母さん--
は、
父がいなくなったことを、
私に隠していた。
『お父さんは、ちょっとお出かけしてるのよ。』
そう言って、私を不安にさせないように微笑んでいた。
幼稚園の母親たちが
私の噂話をしているところを聞いてなかったら、
私が真実を知るのは、もっと遅かったかもしれない。
『倉本さんのご主人、浮気して出て行ったそうよ。』
『うそ~。だって、この間再婚したばかりじゃない。
それに、ひかりちゃんは、幼稚園に来てるでしょ。』
『それが、奥さんに、ひかりちゃんを押し付けて、
自分だけ出て行ったそうよ。』
『本当?ひかりちゃんはどうなるのかしら。お母さんとは、
血が繋がってないんでしょ?』
『かわいそうよね。
でも、確か親戚はいないって聞いたし、
施設に入ることになるかもしれないわよね。』
“施設”という言葉の意味はよく分からなかったが、
それが私にとって、
良くないことだということだけは、理解できた。
6歳の私には、受け入れられない現実だった。


