「スズキの身は硬いから、 包丁は、 よく研いである。 気をつけて切らないと あっという間に 指がなくなるぞ。 いいな?」 「うん。」 あいつは私の右肩から、 乗り出すように手元を見つめている。 私は、 包丁を持つ事からではない緊張で 体を硬くした。 あいつの左頬と、 私の右頬が、 今にも触れそうな距離だ。 飛び出してしまいそうな 心臓の振動が、 指先にまで伝わってきた。