【短編集】僕達の夏



不意に口をついて出た名前に、男は満足そうに頷いた。


「今のは…なんだ?」





死んだはずの母。

知らないはずの男、ヒグラシ。





呆然と呟く僕の前に母がしゃがみ、にこりと微笑んだ。

「今、貴方はいくつ?」

「15…才」

「やっぱりね。
孝司、あなた"記憶帰り"をしているわ。
今ならもう17才のはずだもの」

「"記憶帰り"?」





おうむ返しに聞き返す僕に、ヒグラシが説明する。


「向こうの住人は自我が弱い奴が多い。
母さんが今唄ったのは自我をある程度呼び起こす物だ。
お前はこの唄を15才まで覚えていたから15までの記憶が確実に戻って来た」