「あぁ、今鳴いてる虫?
うん、そうだよ」



「同じ名前でも…こんなに違う」








そう言ったヒグラシの横顔が、やけに虚しいものに見えて…
「どんなふうに?」と聞いても、問い掛けが宙を舞うだけのような気がして、


つい僕は口を閉ざした。






なんともなしに荒廃寸前の神社の鳥居をくぐった瞬間、突如として周囲の明度が少し下がった感覚と、自身の中にわけのわからない不安が水中に広がる墨のようにじわりと侵食してきた。


足元がやけにおぼつかないような、気を抜いたら"自分"というものが霧散してしまうような不安。








ヒグラシが、茫然と呟いたのが、聞こえた。

















「還れた」




それを聞いた途端、僕はその言葉をしっかりと理解するより早く、自我が崩れ落ちていった。