新居の中は思いがけず綺麗だった。

建物自体の古さなどは隠しようがなかったが、畳は青々しいまだ日に焼けていない新しい物だったし、板の間は磨き立てのワックスが光っていた。


近所の家主サンが僕達が来ると聞いて掃除してくれたらしかった。

家主サンは人の良さそうな人だった。



「さぁーさ、お腹空いたでしょ?お昼にしましょうね。」

「ぅわっすっげ!蕎麦だ!泰斗!蕎麦!うまそう!」
「蕎麦はわかったから背中バシバシ叩かないでよ…。」

「ばぁちゃん特製の手作り引越し蕎麦だよぉ。」
「わざわざお蕎麦まで…お世話になります。」

「すっげ!蕎麦って作れんだな!なっ泰斗!」
「テレビでたまにやってんじゃん。いただきます。」

既に喋りながら食べる晃矢の横で手を合わせた。それを見た晃矢が思い出したように、

「いっただぃてまーっすっ」


せめて口の中の蕎麦飲んでから言えよ。滓飛んでるし。

でもそんな晃矢を見て家主サンは皺くちゃの顔を更に皺くちゃにして笑った。


「晃矢ちゃんは元気ねぇ。」


またか。
大人は皆晃矢が好き。同じ顔でも僕は好きじゃないんだ。て言うより、きっとどうでも良いんだ。

「そこら辺、歩いて来る。ごちそうさまでした。美味しかったです。」

箸を置いてトラックの荷台にまだ置いてある大きめのショルダーを持ってその場を離れた。



「なーんだよあいつここでも絵ー描きに行くのかよぉー」
「あらっ。泰斗ちゃん絵描くの?」
「とっても上手なんですよ。ここらは景色が良いからなぁ。」
「見て見たいわぁ。風景画?」
「そうなんですよ。繊細で、どこか不思議な雰囲気があって…」

そこに晃矢が水を射す。


「でも俺あいつの絵、キライ。」

「あらどうして?」




「なんか…いつも冷たいんだ…。」