「朝っぱらなんだ、男がめそめそ泣くんじゃねぇ! ほら、いったいった」
こんなにも清々しい朝だというのに、その人物はどす黒い空気を身に纏っていた。
信太郎の襟元を引っ掴み、優真から易々と引き剥がす。
「ふ、副ぢょ~!」
「鬱陶しい! おい、荒木田! こいつをどっか連れて行け!」
「は、はい!」
土方は丁度近くでこの騒ぎを傍観していた隊士の荒木田に容赦なく信太郎を引き渡す。
ずりずりと引きずられるようにして、優真から離れた席に連れて行かれた信太郎が渋りながら座ったのを確認すると、土方は優真に向き直る。
「おい」
土方の表情は険しさを含んでいた。
(朝から何の用……ってわかってるか、この顔は何かあったんだ)
鋭く怪しく光る獣のような瞳。
土方がこのような顔をする時、必ず何かが起こったのを示唆する。
「何用で、土方副長」
“副長”そこをあえて強調させて言った優真に土方は反応を見せず、優真の肩に手を掛け引くとボソッと呟いた。
「この後、俺の部屋に来い」
そう言った土方はそそくさと離れていく。 優真は再び箸を動かし始めた。
食事を終えた優真が土方の部屋に着くと、呼び出した当の本人は何やら文机に向かって書類の束と葛藤していた。 あまりにも真剣にせっせと筆を動かしているので、ついつい優真は訊いてしまう。
「その書類の束は?」
「ああ? これは芹沢の野郎が仕出かした件だよ、一応上に報告しなきゃなんねぇからな」
明らかにその書類の量は尋常ではなく、どれだけの面倒を起こしたのかがこれ等から判る。 近頃の芹沢は目に余る程の愚行を重ねていた。
あと一月もすれば……、無意識のうちに優真の口から紡がれたその言葉は書類で疲れきっていた土方の耳に届くことはなかった。
カタンッと筆を置く音が部屋に響く。

