くじらは啼いた。


闇が揺れる。


くじらは哭いた。


橋が震える。


一列に並んで浮かぶ墓石は、くじらの骨である。

一志はくじらの鎖骨辺りに腰まで浸かっていた。




遥か上空の橋が、崩れ落ちそうに笑っている。



はて。



こいつは何故、鳴くのだろう。



聞いてみる。

答えは返らない。


問いだけがぷかぷかと闇に浮かび、そのまま橋まで泳ぎ去った。


思考迷路を始める。


この闇がくじらならば、くじらは闇か。


それは否だ。

くじらはくじら。
闇ではない。


では、闇がくじらであるわけがない。
わけがないのに、闇はくじらである。


闇がくじらであるならば、果たして光は何なのか。


「…………」


これはいらない疑問だった。

包んで捨てる。


捨てられたそれは、くじらをひと噛みすると、そのまま橋まで泳ぎきった。





辺りは依然として暗いままだっが、空だけが茜色に染まっていた。