やがて、吊り革が絞首刑用の輪に見えてくるまで、そう時間は要らなかった。


一つに一人ぶら下げる。


多すぎてはいけない、
少なすぎてはいけない。ぴったり全部埋めなければならない。


そう吊り革達がカタカタと歌っていた。

なかなかの美声だった。



吊り革が、絞首刑の縄なら横開きのドアが断頭台であることにも合点がいく。


つまり、ここは牢獄ではなく処刑場というわけだ。


しかし、自分は何の罪も犯してはいない。ここにいるべきではない存在だ。

それでも自分はここにいる。
ここにいるということは、それなりの理由があってしかるべきだ。


冤罪なのかも知れない。



「…………」



とりあえず黙秘権を使うことにした。



重い沈黙にたゆたう中、昨日の夜に食べた唐揚げがいやに鳥の味がしたことを思い出してしまった。


処刑には充分すぎる罪科だった。


背筋が冷たい。


吊り革が揺れる。
しかし、手招きをされてるようには感じない。



そうか。



あの輪は口なのだ。


どうりで手招きに見えない。
手招きをするのは最低限、手であることが必要になるからだ。


あの口に押し当てると、自分の頭を飲み込み、首を見事に括らせる。
そういうものだろう。


職人技だろう。


職人ならばそれくらいはできる。


何故なら彼らは職人であるからだ。


ダーマ神殿に職業変更届けを出すまで職人の座は不動である。



「――――っ」


横スライドのギロチンが
開いた瞬間に、転がるように飛び出した。


すんでのところで噛まれそうだった。


逃げた俺を見て、ギロチンは悔しそうに歯の根をガチガチ鳴らし、荒い鼻息を立てた。





そして、





電車は自分を置いて走りだした。